肝臓は人体の中では最も大きい臓器で、主に肺の直下に位置しています。
この肝臓の働きは多岐に及び、その中でも代表的とされるのが、栄養素の貯蔵や代謝、体内に入ったアルコール等の有害物質の解毒、胆汁の生産と分泌になります。

これらの働きというのは、肝臓に何らかの症状や病気が起きてしまうことで、十分に行えなくなり、次第に様々な症状が現れるようになります。
ただこの肝臓というのは、実際に障害が起きたとしても自覚症状が現れにくく、黄疸や腹水などの症状が現れる頃には、大分進行している状態になっています。
そのため沈黙の臓器とも呼ばれるわけですが、肝炎などによって肝細胞が死滅し、繊維組織が硬くなれば、やがて肝硬変や肝臓がんに至るということもあります。

このような状況を招かないようにするには、早期発見・早期治療が肝心です。
具体的には、健康診断の血液検査の結果から肝臓に関係する数値(ALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTP)が異常であったり、画像検査(超音波検査 等)などから肝機能異常が指摘されたりしたという場合は、これといった症状がなくとも当院を一度ご受診ください。

主な肝臓病

  • 肝炎(ウイルス性、アルコール性、薬物性、自己免疫性 等)
  • 脂肪肝
  • 肝硬変
  • 肝臓がん
  • 原発性胆汁性胆管炎

など

ウイルス性肝炎

肝炎ウイルスに感染することで肝臓が炎症を起こしている状態をウイルス性肝炎といいます。
一口に肝炎ウイルスといいましてもA~E型まで5つのタイプがあります。
感染経路に関してですが、人の血液や体液などを介して感染するのがB・C・D型で、水や食べ物を介して感染するのがA型とE型です。
なお日本で発症するウイルス性肝炎の大半は、A・B・C型によるものです。

A型肝炎

この病気はA型肝炎ウイルスによって感染しますが、その経路につきましては同ウイルスに汚染された生水や食物(生ガキ等の貝類)を通して感染することが多く、感染者の唾液から感染してしまうこともあります。
日本では衛生環境が整っていたり、ワクチンがあったりするので流行しにくいとされ、東南アジアなど流行している地域に行った際に感染することがあるので、それらの地域に行く場合は、あらかじめワクチンを打つようにしてください。

3~6週間の潜伏期間を経て発症、ウイルス肝炎の中では症状が最も強く出るといわれています。
主な症状は、黄疸(白目の部分や皮膚が黄色くなる)、吐き気・嘔吐、発熱、倦怠感などです。

採血による抗体検査などによって診断をつけていきます。

治療について

これといった治療をしなくても自然と治癒することが大半です。
症状が強く出ている場合は、対症療法を行います。
なお同ウイルスは慢性化することはありません。

B型肝炎

B型肝炎ウイルス(HBV)に感染して発症する肝炎ですが、急性B型肝炎ウイルスと慢性肝炎ウイルスに分類されます。

急性は、同ウイルスに感染すると、間もなく発症するようになります。
この場合の感染経路としては、感染者との性行為、注射器の使い回し、輸血や臓器移植、感染者の血液が傷口などから入り込むなどがあります。

一方の慢性は、HBVに感染しているものの沈静化した状態が続き、その後同ウイルスが徐々に感染していくことで炎症状態が起きることもあれば、急性肝炎のように急激に進行することもあります。
ちなみに慢性肝炎とは肝臓に炎症が6ヵ月以上続く場合をいいます。
感染経路としては、母子感染(垂直感染)や水平感染(幼少期の注射 等)など、免疫機能が未熟な状態で乳幼児期にHBVに感染し、キャリア化したケースが挙げられます。

主な症状

よくみられる症状ですが、急性は1~6ヵ月の潜伏期間を経て発症します。
急性の症状としては、黄疸、全身倦怠感、食欲不振、吐き気・嘔吐、発熱がみられることもあり、人によっては劇症肝炎に至ることもあります。
ただその一方で、症状の程度が軽度で、気づかぬまま治ってしまうということもあります。

なお成人になってからの初感染では、感染しても発症しないというケースが多く、人によっては急性肝炎の症状が出るといったものですが、これらの大半は治るようになりますが、慢性化してしまう可能性もあります。

慢性B型肝炎につきましては、自覚症状は出にくいとされていますが、慢性の肝炎状態を続けると肝硬変や肝細胞がんに移行するので、早めに対応することが肝心です。

検査について

血液検査で、抗原の有無や炎症の程度を調べます。
必要であれば、画像検査(腹部超音波検査、MRI)を行うこともあります。
このほか、炎症の進行状況を調べるための肝生検もしていきます。

治療について

急性B型肝炎ウイルスは、安静にしていれば自然と回復するようになります。
ただし、まれではありますが、劇症肝炎を発症している場合は治療が必要になります。

慢性B型肝炎ウイルスの場合、これ以上の肝臓障害を予防する必要があるので、同ウイルスの活動を抑制する効果があるとされる、インターフェロンや核酸アナログ製剤による抗ウイルス薬による治療が行われます。

C型肝炎

C型肝炎ウイルス(HVC)に感染することで発症する肝炎です。
こちらも急性と慢性の2つのタイプがあり、肝臓の炎症が6ヵ月以上続いていることが確認されると慢性C型肝炎と診断されます。

感染経路の大半は血液を介するもので、注射器の使い回しや針刺し事故、臓器移植、不適切な衛生環境での入れ墨などが挙げられますが、感染源が不明というケースも見受けられます。
なお母子感染や性行為による感染については、B型肝炎と比較すると少ないです。

2週間から6ヵ月の潜伏期間を経てから発症しますが、初期の頃は発熱、全身のだるさ、食欲不振などが現れますが、次第に自覚症状はみられなくなります。

ただこのHVCウイルスに関しては、急性の患者様の7割程度の方は慢性のC型肝炎に移行するとされ、慢性化した場合は自然に治るということはないとされています。
この状態を放置すると、肝硬変へと移行し、黄疸やむくみなどの症状が現れるようになります。

検査について

血液検査で、肝機能の状態や肝臓の炎症の有無や程度を調べます。
また画像検査(腹部超音波検査、CT、MRI 等)によって肝臓の様子を確認することもあります。

治療について

C型肝炎では、抗ウイルス薬(D AA等)の内服による薬物療法になります。
なお薬物療法でウイルスを除去されたとしても、その時点で肝臓の損傷の程度が大きいと肝がんを発症するリスクは高くなります。

アルコール性肝障害

長年(5年以上)に渡る大量の飲酒習慣(1日平均で純エタノールが60g以上)がきっかけとなって起きるとされる肝障害のことをアルコール性肝障害といいます。

発症初期は自覚症状が出にくいとされ、病状が進行するにつれて症状が現れるようになります。
進行状況としては、大量飲酒によって、まず脂肪肝(アルコール性脂肪肝)がみられ、次に肝臓の線維化(アルコール性肝線維症)や肝炎(アルコール性肝炎)がみられるようになります。
さらに放置が続けば、肝硬変(アルコール性肝硬変)や肝がん(アルコール性肝がん)に至ることもあります。

主な症状ですが、脂肪肝や肝線維症では無症状なことが大半です。
アルコール性肝炎の状態になると、黄疸、発熱、むくみ、腹痛などの症状がみられ、アルコール性肝硬変になると肝硬変と同様の症状(意識障害、手のふるえ、くも状血管腫 等)がみられるようになります。

検査について

診断をつけるにあたっては、まず飲酒歴を確認します。
さらに血液検査で、肝機能の数値(AST・ALT・γ-GTP)や肝炎ウイルスの有無などを調べます。
さらに腹部超音波検査などの画像検査で肝臓の状態も確認していきます。

治療について

アルコール性肝障害と診断を受けた場合は、進行の程度に関係なくまず禁酒を実践します。
また患者様の栄養状態がよくないとなれば、ビタミンB群の投与も行い、脂肪肝であれば高脂肪食は避け、栄養バランスの取れた食事に努めるなどしていきます。

アルコール性肝炎やアルコール性肝硬変まで病状が進んでいる場合は、急性肝炎や肝硬変と同様の治療が行われます。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

過剰飲酒が原因ではないのにも関わらず、肝臓に脂肪が蓄積している状態(肝細胞に中性脂肪が30%以上蓄積)を非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といいます。

このNAFLDにつきましては、さらに2つに分類されます。
ひとつは、脂肪の蓄積がきっかけとなって、炎症が起きている状態で、これを非アルコール性脂肪肝炎(NASH)といいます。
もうひとつは、肝臓に脂肪は蓄積されているものの、炎症や何らかの障害がまだ起きていない状態の非アルコール性脂肪肝(NAFL)です。

発症の原因については、肥満やメタボリックシンドローム、2型糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病が挙げられています。そのほかにも、何らかのホルモン異常、睡眠時無呼吸症候群、遺伝子異常なども関係しているのではないかといわれています。
男性の方が発症しやすいとされますが、女性も高齢層になると見受けられるようになります。

主な症状

なおNAFLDは自覚症状が出にくい病気で、NASHが進行して肝硬変(NASH肝硬変)の状態になると、食欲不振、全身のむくみ、腹水、易疲労性、黄疸、手のふるえなどが現れるようになります。

検査について

問診で飲酒歴や現在治療中の病気などをお聞きします。
さらに血液検査で肝臓の健康状態(AST、ALT、γ-GTP 等)を調べるほか、肝炎ウイルス感染の有無を確認したりしていきます。
また肝臓の脂肪の蓄積状態などを見るための画像検査として、腹部超音波検査、CT、MRIなどを行います。
またNASHが疑われる場合は、確定診断として肝生検(肝臓に針を刺し、肝細胞等の組織を一部採取し、詳細を顕微鏡で調べる)を行います。

治療について

肥満の状態にある方は、日々の生活習慣を見直します。
食事面では、カロリーの量を適切にしたり、炭水化物(糖質 等)の摂取を控えたりするなどしていきます。
また運動を取り入れることも大切で、中等度以上の強さによる有酸素運動(ウォーキング、軽度なジョギング、水泳 等)を1回30分以上、可能であれば毎日実践されるようにしてください。

なお生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症 等)に罹患している患者様につきましては、各々の疾患に対する薬物療法も併せて行っていきます。

このほか基礎疾患がないとされる患者様につきましては、ビタミンEが投与されます。

NASH肝硬変の患者様の場合は、肝硬変の症状をやわらげるための治療をしていきます。

肝硬変

肝臓で慢性的な炎症がみられることで、肝細胞が減少したり、肝臓の線維化が進むなどして肝機能が大きく低下している状態が肝硬変です。
これがさらに進行してしまうと肝不全や肝がんに至ることもあります。

発症の原因については、ウイルス性肝炎(主にB型肝炎やC型肝炎)、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患などが挙げられますが、その中でもC型肝炎をきっかけとした肝硬変が最も多いとされています。

よくみられる症状ですが、発症初期は自覚症状が現れにくい(代償性肝硬変の状態)のですが、線維化がさらに進むことで肝機能が著しく低下していく(非代償性肝硬変の状態)と、黄疸、腹水(腹部の膨満感)、浮腫(むくみ)、吐血や下血などの消化管出血、意識障害、全身の倦怠感などが現れるようになります。

検査について

血液検査を行い、肝機能の状態や異常があればその程度、肝炎ウイルス感染の有無などをみていきます。
さらに画像検査(腹部超音波検査、CT、MRI)で肝臓の表面や形、大きさ、腹水や腫瘍の有無などを調べます。
なお診断を確定させるためには、肝生検を行わなければなりません。

治療について

肝硬変の病状によって異なり、自覚症状が現れにくい代償性肝硬変の状態であれば、原因疾患に対する治療となります。
例えば、C型肝炎やB型肝炎であれば抗ウイルス薬が用いられます。
また生活習慣の見直しとして、バランスのとれた食事、減塩に努めるなどしていくほか、肝臓の炎症を抑制させるための肝庇護療法として、グリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸なども使用していきます。

一方、非代償肝硬変の状態にあれば、合併症による治療が中心となります。
例えば腹水の場合、食塩の使用制限や利尿薬を使用するなどしていきます。
また肝性脳症(肝機能低下でアンモニアが体内に溜まり、意識障害等が起きている状態)が現れているのであれば、食事でのたんぱく質の制限、分岐鎖アミノ酸製剤の使用などがあります。
さらに食道静脈瘤では、内視鏡を用いた治療が行われるほか、肝硬変をきっかけに併発する腹膜炎(特発性細菌性)につきましては、抗菌薬による治療を行っていきます。

肝がん

肝臓で発生した悪性腫瘍のことで、大きく転移性肝がんと原発性肝がんの2種類に分けられます。

転移性の発生率は原発性の約20倍と圧倒的に多く、原因としては、大腸がん、膵がん、胃がん、肺がん、乳がんなど様々あり、線がんが多いのも特徴です。
また原発性肝がんは、肝臓で発生するがんのことで、肝細胞がんと肝内胆管がんの2種類ありますが、そのうち9割程度の患者様は肝細胞がん患者様で占められています。
以下は、原発性肝がんの説明になります。

肝細胞がん

肝細胞がんは、肝細胞に由来して発症する上皮性悪性腫瘍のことです。
主にB型肝炎やC型肝炎等の慢性のウイルス性肝炎が原因の大半ですが、肝硬変、NASHや過剰な飲酒がきっかけとなって発生することもあります。

発症初期は自覚症状は出にくいとされていますが、病状が進行すれば腹部にしこりや痛み、ハリを感じることもあります。
また患部(がん)から出血があれば、強い腹痛や低血圧がみられます。
このほか肝硬変が引き起こされていれば、それに対する症状(黄疸、腹水、意識障害 等)が出ることもあります。

診断をつけるにあたっては、血液検査で肝機能低下や肝炎ウイルス感染の有無を確認するほか、画像検査(腹部超音波検査、CT、MRI)で腫瘍の位置や大きさ、範囲を確認していきます。
また必要であれば、生検で一部組織を採取し、顕微鏡で詳細を調べる検査を行い、確定診断を行います。

治療について

病状の進行の程度や肝臓がどの程度働くかによって治療内容は変わっていきます。
肝機能の状態が悪くなければ、手術療法(外科的治療)による切除となります。
また肝機能の状態がよく、がん細胞が3㎝以下で、数が3個程度であれば、ラジオ波焼灼療法によって、がんを焼灼していきます。

肝臓の状態があまりにも悪ければ、肝移植が選択されることもあります。

肝内胆管がん

また原発性肝がんの4~5%を占めるとされる肝内胆管がんは、肝内胆管上皮より発生するがんで多くは腺がんです。
発症の原因は、はっきり特定していませんが、ウイルス性肝炎や肝内結石、原発性硬化性胆管炎などが関係しているのではないかといわれています。

主な症状ですが、発症初期は自覚症状が出にくいのですが、病状が進行する(腫瘍が大きくなる)と、黄疸、腹痛、体重減少などがみられるようになります。
腹痛については、右わき腹やみぞおちあたりに痛みが出るようになりますが、これらの痛みは胆石症でもみられることがあります。

診断をつけるにあたっては、血液検査を行い、ALPやγ‐GT、腫瘍マーカー等の数値を確認するほか、画像検査(CT、MRI 等)なども行います。

治療について

基本は手術療法(外科的切除)となりますが、切除が困難という場合(リンパ節への転移 等)は化学療法(抗がん剤)による治療が選択されます。